「iDeCoの掛金、家計が苦しいから止めたい。止めたら損するの?」 「60歳になったら勝手に運用指図者になった。このまま受け取らずに置いておいていい?」
どちらも、行き着く先は同じ言葉ですわ。運用指図者。掛金を出さずに、すでに積み立てた資産の運用だけを続ける立場のことですの。
先に結論を言っておきますわね。運用指図者になって困るのは、節税が止まることだけではありません。運用指図者でいた年数は、受け取るときの退職所得控除の計算に1年も入らない——ここを知らずに何年も放置する人が多いのですわ。そして2026年12月1日の制度改正で、60歳を過ぎた運用指図者の一部は、もう一度掛金を出せるようになります。
結論:運用指図者になると何が変わるか#
| 項目 | 加入者(掛金を出している) | 運用指図者(掛金を出していない) |
|---|---|---|
| 掛金の拠出 | できる(月5,000円〜) | できない |
| 掛金の所得控除 | 受けられる | なし |
| 運用益の非課税 | あり | あり |
| 商品の入れ替え(スイッチング) | できる | できる |
| 毎月の手数料(楽天証券の例) | 171円(2027年1月引落分から186円) | 66円 |
| 退職所得控除の「勤続年数」 | 数える | 数えない |
| 受給開始年齢の判定(通算加入者等期間) | 数える | 数える |
いちばん下の2行が、この記事の主題ですわ。同じ「運用指図者の期間」が、受給開始年齢の判定には入るのに、退職所得控除には入らない。 2つの「期間」を混同すると、受け取り計画が狂いますの。
受け取り方そのもの(一時金・年金・併用のどれがお得か)は、別の記事で判定表にまとめていますわ。→ iDeCo受け取り方はどれが一番お得?一時金・年金・併用の判定表
この記事は、その「受け取る前」の段階——掛金を止めた期間が、受け取りの税金にどう跳ね返るかを扱いますの。
運用指図者になる3つのパターン#
運用指図者になるのは、だいたい次の3つのどれかですわ。
- 自分で掛金を止めた(家計の事情など。金融機関に資格喪失の届出を出す)
- 加入資格を失った(60歳になった自営業の方、退職して国民年金の第2号被保険者でなくなった方など)
- 企業型DCからiDeCoに資産を移しただけで、掛金の手続きをしていない
3つ目は、自分が運用指図者だと気づいていない人がいちばん多いパターンですわね。転職のときに企業型DCの資産をiDeCoへ移換しても、掛金の加入手続きを別にしなければ、自動的に運用指図者のままですの。転職時の手続きの流れは iDeCo転職・退職時の手続き完全ガイド にまとめてありますわ。
手数料:掛金を止めても月66円はかかり続ける#
楽天証券が公表している手数料(税込)で見てみますわね。
| 支払先 | 加入者 | 運用指図者 |
|---|---|---|
| 国民年金基金連合会 | 105円/月(2027年1月26日引落分から月120円) | 0円 |
| 運営管理機関(楽天証券) | 0円 | 0円 |
| 信託銀行(事務委託先) | 66円/月 | 66円/月 |
| 合計 | 171円/月 | 66円/月(年792円) |
運用指図者になると、掛金を収納するときの国民年金基金連合会の手数料はかからなくなります。でも信託銀行の66円は残り続けるの。運用指図者の場合は、年1回、保有商品の一部を売って手数料に充てる仕組みですわ。
年792円は小さく見えますけれど、残高が少ないと効いてきますの。たとえば残高10万円を年1%で運用しても、増えるのは年1,000円。そこから792円が引かれて、さらに投資信託の信託報酬もかかりますわ。残高が少ない人ほど「止めて放置」は割に合わない、と覚えておいてくださいまし。
なお、運営管理機関の手数料は金融機関によって違います。楽天証券・SBI証券のように0円のところもあれば、月数百円かかるところもありますの。運用指図者のまま長く置くなら、ここは一度確認しておく価値がありますわ。
最大の落とし穴:運用指図者の期間は退職所得控除に入らない#
iDeCoを一時金で受け取ると「退職所得」になり、退職所得控除が使えますわね。控除額は「勤続年数」で決まります。
| 勤続年数(A) | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × A(最低80万円) |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 ×(A − 20年) |
iDeCoの場合、この勤続年数に数えるのは掛金を納めていた個人型年金加入者期間だけですの。所得税法の規定では、勤続年数は「掛金を納付した加入者期間」を合算して計算すると定められていて、掛金を出していない運用指図者の期間は含まれませんわ(所得税法施行令69条など。税理士事務所の税務質疑応答でも同じ結論)。
具体的に比べてみますわね。
| ケース | 勤続年数として数える年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|---|
| 20年ずっと掛金を出した | 20年 | 800万円 |
| 15年掛金を出し、残り5年は運用指図者 | 15年 | 600万円 |
| 10年掛金を出し、残り10年は運用指図者 | 10年 | 400万円 |
口座を持っていた期間はどれも20年。それでも、控除額は最大で400万円も違いますの。
控除を超えた部分は「(受取額 − 控除額)× 1/2」に課税されます。控除が200万円減ると、課税される所得は最大100万円増える計算。所得税・住民税あわせて税率20%前後の人なら、税金がおよそ20万円前後増える可能性がある、という規模感ですわ(実際の税額は受取額と他の所得しだいで変わります)。
さらに会社の退職金がある人は、退職金とiDeCoの一時金で控除の枠を分け合うことになりますの(いわゆる10年ルール・19年ルール)。控除の年数がもともと少ないと、余計に枠が足りなくなりますわ。このあたりの調整は 受け取り方の判定表の記事 で詳しく書いていますわね。

逆に、受給開始年齢の判定には数えられる#
ややこしいのは、ここからですわ。
iDeCoを60歳から受け取るには、60歳になるまでの「通算加入者等期間」が10年以上必要ですの。この通算加入者等期間には、企業年金連合会の用語集にあるとおり、次の4つがすべて入ります。
- 企業型年金加入者期間
- 企業型年金運用指図者期間
- 個人型年金加入者期間
- 個人型年金運用指図者期間
つまり、運用指図者でいた期間も「受け取れる年齢」の判定には効くのですわ。10年に満たない場合は、受け取り開始が61歳以降へ繰り下がります。
| 判定の用途 | 運用指図者の期間 |
|---|---|
| 何歳から受け取れるか(通算加入者等期間) | 数える |
| 一時金の退職所得控除(勤続年数) | 数えない |
「口座を開いてから10年経ったから大丈夫」と思うのは、受給開始年齢の話としては正しくても、税金の話としては間違い——ということですの。どちらの年数の話をしているのか、必ず分けて考えてくださいまし。
運用指図者のまま、いつまで置いておける?#
受け取りの開始は、60歳から75歳になるまでの間で選べますわ(iDeCo公式サイト)。75歳までに請求しないと、資産は法務局に供託されてしまいますの。
運用指図者のまま受け取りを先に延ばすと、運用益の非課税は続きますけれど、
- 手数料(月66円など)は毎月かかり続ける
- 退職所得控除の年数は1年も増えない
- 相場が下がった時期に75歳の期限が来ると、受け取りの時期を選べない
という点は覚えておいてくださいまし。「受け取りを延ばす=控除が増える」ではないのですわ。控除が増えるのは、掛金を出している年だけですの。
2026年12月1日の改正:60歳以上の運用指図者が掛金を再開できる#
ここが、いま運用指図者の方にとって一番大事なところですわ。
年金制度改正法で、iDeCoの加入可能年齢の上限が70歳未満へ引き上げられ、2026年12月1日から施行されます。楽天証券の案内では、改正後は次の条件を満たせば70歳未満まで掛金を出せる予定ですの。
- 老齢基礎年金を受け取っていない
- iDeCoの老齢給付金を受け取っていない
- 企業型DCのマッチング拠出をしていない
国民年金の被保険者でない60歳以上70歳未満の方は、新しく「第5号加入者」という区分になりますわ。ただし第5号加入者は、改正前からiDeCoの口座を持っているか、企業年金からの資産移換と同時に加入を申し出る必要があります(2029年11月末までは経過措置あり)。
60歳で資格を失って運用指図者になった人は、まさに「改正前から口座を持っている」人ですわね。まだ老齢給付金を1円も受け取っていなければ、12月から加入者に戻れる可能性があるのですわ。
そして加入者に戻って掛金を出した年数は、退職所得控除の勤続年数に数えられる個人型年金加入者期間になりますの。60歳から69歳まで掛金を出せば、控除の年数を最大で10年分積み増せる計算ですわね。
注意したいのは、一度でも老齢給付金を受け取ると、この道は閉じるということ。一時金で一括受け取りした場合も含みますわ。60歳を過ぎて「もう受け取ってしまおうかしら」と迷っている方は、12月の改正内容を確認してからでも遅くありませんの。
掛金の上限も同じ日に引き上がります(会社員で企業年金なしなら月6.2万円)。上限の内訳は iDeCo上限6.2万はいつから? にまとめてありますわ。

掛金を止める前に:「減額」という選択肢#
家計が苦しくて掛金を止めたい、という場合。いきなり運用指図者になる前に、掛金を下げることも考えてみてくださいまし。
| 選択肢 | 所得控除 | 退職所得控除の年数 | 毎月の負担 |
|---|---|---|---|
| 減額(たとえば月2万円→5,000円) | 残る(金額は減る) | 増え続ける | 掛金5,000円+手数料 |
| 停止(運用指図者) | なし | 増えない | 手数料のみ |
最低額の月5,000円でも掛金を出していれば、その年は退職所得控除の勤続年数に1年として数えられますわ。所得税・住民税あわせて20%の人なら、月5,000円(年6万円)の掛金で年1.2万円ほどの節税も残りますの。
掛金額の変更は、1年(12月分〜翌年11月分)に1回まで。家計が落ち着いたら、また増額すればよろしいですわ。
運用指図者から加入者に戻るには#
条件を満たしていれば、運用指図者からいつでも加入者に戻れますの。手続きは、いまiDeCoの口座を管理している金融機関(運営管理機関)に加入の申し出をするだけ。新しい金融機関を探す必要はありませんわ。
戻れないのは、主に次のような場合ですの。
- iDeCoの老齢給付金をすでに受け取った(一時金を含む)
- 老齢基礎年金を繰り上げ受給している
- 年齢や被保険者の区分の要件を満たしていない(2026年11月までは原則65歳未満、12月からは上記の第5号加入者を含めて70歳未満)
- 国民年金保険料を免除されている(一部免除を含む)
まとめ:運用指図者で押さえる5つのポイント#
- 運用指図者は掛金を出さず運用だけ続ける人。所得控除はなくなるが、運用益の非課税は続く
- 手数料は止まらない。楽天証券なら月66円(年792円)。残高が少ないほど重い
- 運用指図者の期間は退職所得控除の勤続年数に入らない。20年口座があっても、掛金が15年なら控除は600万円
- 一方で受給開始年齢の判定(通算加入者等期間)には入る。2つの「期間」を混同しない
- 2026年12月1日から、老齢給付金を受け取っていない60歳以上の運用指図者は、70歳未満まで掛金を再開できる可能性がある。受け取る前に確認を
止めるか、減らすか、再開するか。どれが正解かは家計と残高と年齢しだいですわ。ただ、「止めても損はない」とだけは思わないでくださいまし。年数は、あとから取り戻せないのですから。🌹
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参考資料#
- iDeCoの加入資格・掛金・受取方法等(iDeCo公式サイト)
- 手数料(楽天証券 個人型確定拠出年金)
- 【2026年12月制度改正】iDeCoの加入可能年齢・拠出限度額が引き上げ(楽天証券)
- 通算加入者等期間(企業年金連合会 用語集)
- 確定拠出年金制度の運用指図者期間と退職所得控除額の計算における勤続年数の関係(TACS会計事務所 税務質疑応答)
- No.1420 退職金を受け取ったとき(国税庁)
※本記事は2026年10月24日時点の公表情報にもとづく一般的な解説です。手数料は金融機関ごとに異なり、税額は受取額やほかの所得によって変わります。個別の判断は金融機関や税理士にご確認ください。





