営業利益が前年同期比**+46.1%。営業利益率28.9%**は四半期として過去最高水準。上期の業績予想は3ヶ月前より上方修正。
……それで株価は、高値から**34.7%**下げておりますの。
東京エレクトロン(8035)の話ですわ。2026年7月1日に78,800円の高値をつけたあと、9月11日の終値は51,460円。3分の1が消えました。決算はどう見ても良いのに、です。
この「決算と株価の乖離」には、ちゃんと説明のつく原因がありますの。しかもその原因を調べていくと、東京エレクトロンが作っていない製品のニュースで、東京エレクトロンが売られていたという、なかなか間の抜けた構図が出てきますわ。
5つの数字で順に見てまいりましょう。
数字①:-34.7%。ただし年初来では+39.3%#
まず、どれくらい下げたのかを正確に置いておきますわ。同業と並べると景色が変わりますの。
| 銘柄 | 9/11終値 | 年初来高値 | 高値比 | 年初来 |
|---|---|---|---|---|
| 東京エレクトロン(8035) | 51,460円 | 78,800円(7/1) | -34.7% | +39.3% |
| アドバンテスト(6857) | 31,720円 | 37,780円(8/17) | -16.0% | +49.8% |
| ディスコ(6146) | 51,980円 | 88,480円(6/22) | -41.3% | +1.7% |
| レーザーテック(6920) | 34,570円 | 57,490円(6/22) | -39.9% | +9.0% |
| 日経平均 | 64,011円 | 72,366円(6/25) | -11.5% | +23.5% |
見るべきは2列目と3列目の差ですのよ。
高値比では東京エレクトロンは-34.7%と、ディスコ(-41.3%)やレーザーテック(-39.9%)と同じ「3〜4割下げた組」に見えます。ところが年初来では+39.3%。ディスコ(+1.7%)やレーザーテック(+9.0%)とは、まったく違う位置におりますの。
つまり東京エレクトロンの下げは、1年かけて積み上げた上昇のうち、直近2ヶ月半で積み増した分を吐き出したという形ですわ。同じ「高値から3割安」でも、往復ビンタで振り出しに戻ったディスコとは中身が違います。
「高値からいくら下げたか」だけを見ると、この差は永遠に見えませんのよ。
数字②:-11.0%と-10.6%。2日で2割が消えた日に何があったか#
下げの大部分は、実はたった2日に集中しておりますの。
| 日付 | 東京エレクトロン | 日経平均 | ディスコ | レーザーテック |
|---|---|---|---|---|
| 2026/7/28 | -11.0% | -4.0% | -12.4% | -14.0% |
| 2026/7/29 | -10.6% | -1.5% | -6.5% | -8.3% |
| 2026/7/30 | +4.5% | +0.7% | +1.1% | -2.1% |
7月24日終値62,660円 → 7月29日終値50,000円。**3営業日で-20.2%**ですわ。
何があったか。大和アセットマネジメントが当日出したレポートに、はっきり書いてありますの。
7月28日の日経平均株価は前日比2,566円安(▲4.0%)となり(中略)オランダ企業が独占的に行ってきた液浸型深紫外線(DUV)露光装置の製造を中国企業が開始したとの報道を受け、半導体製造装置における競争激化が嫌気されました。 — 大和アセットマネジメント「7月28日の日本株の急落について」(2026年7月28日)
ロイター、日本経済新聞、セミコンポータルも同じ内容を報じておりますので、原因の特定としては十分な裏が取れておりますわ。
では、その「オランダ企業」とはどこか。ASMLですのよ。
数字③:ASMLは-11.7%、東京エレクトロンは-20.2%#
ここが今回いちばん面白いところですわ。
中国が国産化を始めたと報じられたのは、液浸ArF(DUV)露光装置。この市場は、ASMLが昨年131台を出荷して**市場シェア98.7%**という、ほぼ完全な独占状態にありますの(セミコンポータル、2026年8月6日)。つまり報道の直撃弾を浴びるのはASML、次いでニコンですわ。
ところが、株価の下げ幅はこうなりました。
| 銘柄 | 7/24終値 | 7/29終値 | 下落率 |
|---|---|---|---|
| ASML(当事者) | $1,757.09 | $1,550.69 | -11.7% |
| 東京エレクトロン | 62,660円 | 50,000円 | -20.2% |
当事者より、当事者でない会社のほうが倍近く売られましたの。
東京エレクトロンの製品ラインを確認しておきましょう。同社が装置を持つのは、成膜・リソグラフィ(塗布現像)・エッチング・洗浄・テスト・ボンディングの各工程ですわ。同社サイトの説明を引きますと——
フォトレジストを均一に塗布し、露光機を用いてフォトマスクの回路パターンを転写します。 — 東京エレクトロン「製品・サービス」ページ
「露光機を用いて」。つまり露光機は他社製。東京エレクトロンが作っているのは、露光の前後に置く塗布現像装置(シェア約90%、High-NA EUV向けではほぼ100%)であって、露光装置そのものではありませんの。
もちろん「中国の装置国産化が塗布現像やエッチングにも波及する」という懸念は成り立ちます。それは後述のリスクで扱いますわ。ただ、7月28〜29日の値動きは、そこまで丁寧に区別された売りには見えませんわね。半導体製造装置というラベルが貼ってある銘柄が、まとめて叩かれた。それだけですの。

なお、この2日間の暴落は決算発表の前に起きておりますのよ。決算が出たのは7月30日。株価は+4.5%、翌31日も+6.2%と素直に戻しましたわ。市場は決算を見て「悪くない」と判断したわけですの。
数字④:中国比率49.9%→30.4%。ただし絶対額は-19.5%にとどまる#
「中国リスク」を株価ではなく売上高で見てみましょう。東京エレクトロンは四半期ごとに地域別売上を開示しておりますので、数字で確認できますわ。
| 地域 | FY2025 Q1 | 構成比 | FY2027 Q1 | 構成比 | 増減 |
|---|---|---|---|---|---|
| 中国 | 2,770億円 | 49.9% | 2,229億円 | 30.4% | -19.5% |
| 台湾 | 800億円 | 14.4% | 1,861億円 | 25.4% | +132.6% |
| 韓国 | 678億円 | 12.2% | 1,524億円 | 20.8% | +124.8% |
| 日本 | 385億円 | 6.9% | 646億円 | 8.8% | +67.8% |
| 北米 | 590億円 | 10.6% | 590億円 | 8.1% | ±0% |
| 欧州 | 155億円 | 2.8% | 242億円 | 3.3% | +56.1% |
| 合計 | 5,550億円 | — | 7,323億円 | — | +31.9% |
中国依存度が2年で**49.9%→30.4%**まで落ちましたの。「中国頼みの会社」という前提は、もう事実に合いませんわ。
しかも中国の売上絶対額は2,770億円→2,229億円と、-19.5%減っただけ。その間に台湾が+132.6%、韓国が+124.8%と、穴を埋めて余りある伸びを見せましたの。AIロジック(台湾=TSMC系)とHBM/DRAM(韓国)の投資が主役に入れ替わった、ということですわ。
中国リスクは「怖い話」ではなく「すでに起きて、すでに吸収された話」。そう読むほうが数字に忠実ですのよ。
数字⑤:PERは33.5倍。ただし会社は通期予想を出していない#
では、51,460円という株価はどう評価すればよろしいのでしょう。
2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月)の実績はこちらですわ。
| 項目 | FY2026 Q1 | FY2027 Q1 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 5,495億円 | 7,323億円 | +33.3% |
| 売上総利益率 | 46.2% | 46.8% | +0.6pt |
| 営業利益 | 1,446億円 | 2,114億円 | +46.1% |
| 営業利益率 | 26.3% | 28.9% | +2.6pt |
| 純利益 | 1,178億円 | 1,643億円 | +39.5% |
| 自己資本比率 | — | 71.7% | — |
ここで注意すべき点がひとつ。東京エレクトロンは2027年3月期の通期業績予想を、まだ開示していませんの。決算短信にこう書いてありますわ。
通期連結業績予想は、第2四半期(中間期)の決算発表時に開示する予定であります。
開示されているのは上期(4〜9月)の予想だけ。しかもそれは7月30日に上方修正されたばかりですの。
| 上期予想 | 4/30時点 | 7/30修正 | 修正幅 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 15,700億円 | 16,200億円 | +500億円 |
| 営業利益 | 4,310億円 | 4,580億円 | +270億円 |
| EPS | 721.12円 | 767.51円 | +46.39円 |
この上期予想から逆算すると、Q2単独では売上8,877億円・営業利益2,466億円が見込まれておりますの。Q1(7,323億円/2,114億円)をさらに上回る計算ですわ。
そのうえで会社は、下期についてこう言っております。
FY2027下期:需要拡大の勢いは一段と加速。上期を大きく上回る成長を想定 — 2027年3月期第1四半期 決算説明会資料(2026年7月30日)
では、PERを3通りで置いてみましょう。すべて9月11日終値51,460円ベースの計算値ですわ。
| 前提 | 1株利益 | PER |
|---|---|---|
| FY2026通期実績 | 1,254.57円 | 41.0倍 |
| 上期予想EPSを単純に2倍 | 1,535.02円 | 33.5倍 |
| 中期経営計画の目標を達成した場合 | 約1,980円 | 約26倍 |
3行目は、中期経営計画(〜2027年3月)の財務目標「売上高3兆円以上・営業利益率35%以上」が達成された場合の試算ですの。営業利益1兆500億円に、FY2026実績並みの営業外収益と実効税率23.2%を当てはめたわたくしの計算値であって、会社発表の数字ではございませんわ。
会社自身は、この目標の進捗を「売上高3兆円:On Track/営業利益率35%:In Progress/ROE30%:On Track」と評価し、「営業利益率の目標達成はチャレンジングだが、これまでの着実な進捗により、1兆円の営業利益が視野に」と説明しておりますの。
そして市場環境。会社のWFE(前工程製造装置)市場見通しはこうですわ。
- CY2026:$150B以上
- CY2027:$190B以上
- AIデータセンター向けが、WFE全体の50%に達する勢いで成長

製品別では、塗布現像が売上成長率+50%超、エッチングが+25%超(通期売上1兆円が視野)、Advanced Packagingが+70%超(プローバは通期1,000億円を大きく超える見通し)。どこを見ても減速の兆しは出ておりませんの。
それでも残る3つのリスク#
数字が良いことと、株価が上がることは別の話ですわ。慎重に見るべき点を3つ挙げておきますの。
1. 通期予想が未開示であること自体がリスク 上の「33.5倍」も「26倍」も、会社が保証していない前提の上に立っておりますわ。答え合わせは第2四半期決算(例年10月下旬〜11月上旬)。ここで通期予想と期末配当が同時に出ますの。上期の勢いが下期計画に反映されなければ、33.5倍という数字は前提から崩れます。
2. 中国の装置国産化は、露光以外にも及びうる 今回の報道は露光装置の話で、東京エレクトロンの製品ではありませんでした。ですが中国にはエッチングのAMEC、成膜・洗浄のNauraといった国産装置メーカーが実在しますの。同社の中国売上は2,229億円と全体の30.4%を占めており、ここが構造的に削られていく可能性は否定できませんわ。「今回は無関係だった」ことと「将来も無関係」は、まったく別ですのよ。
3. ボラティリティが極めて高い 3営業日で-20%、その2日後には2日で+11%。これがこの銘柄の平常運転ですわ。1単元100株なので、51,460円なら約515万円。日常的に±10%動く資産を515万円分持つということが、ご自身のリスク許容度に収まるかどうか。ここは数字の良し悪しより先に確認すべき点ですの。
なお配当は、FY2026実績が年間628円(配当性向50.1%)。FY2027は中間384円が予想されておりますが、期末配当は未定で、こちらも第2四半期決算時の開示待ちですわ。9月11日終値に対する実績利回りは1.22%。配当目的で持つ銘柄ではございませんのよ。
まとめ#
| # | 数字 | 意味 |
|---|---|---|
| ① | 高値比-34.7%/年初来+39.3% | 下げたのは直近の上昇分。往復ビンタの同業とは位置が違う |
| ② | 7/28 -11.0%、7/29 -10.6% | 下げの大半は2日に集中。原因は中国の露光装置国産化報道 |
| ③ | ASML -11.7% vs TEL -20.2% | 当事者より非当事者が倍売られた。TELは露光装置を作っていない |
| ④ | 中国比率 49.9%→30.4% | 中国リスクはすでに起き、台湾+132.6%・韓国+124.8%が吸収済み |
| ⑤ | 営業利益率28.9%/PER33.5倍 | ただし通期予想は未開示。答え合わせは2Q決算 |
追いかけるなら、この3つを見れば十分ですわ。
- 第2四半期決算で開示される通期予想(上期16,200億円の勢いが下期計画に乗るか)
- 地域別売上の台湾・韓国(中国の減少を吸収し続けられているか)
- 営業利益率が28%台を維持できるか(中計の35%目標に向けた実力値)
決算が良いのに株価が下がっているとき、答えは「市場が間違っている」か「市場が先を見ている」かのどちらかですわ。今回は前者寄り——少なくとも7月28〜29日の売られ方に関しては、製品ラインを確認していない売りだったと、数字は言っておりますの。
……べ、別に「だから買い」と申し上げているわけではありませんわよ。株価が34.7%下げた理由が自社の業績ではなかった、というだけのこと。そのうえで33.5倍というPERを高いと見るか安いと見るかは、御主人様がお決めになることですわ。
わたくしにできるのは、売られた理由が何だったのかを、憶測ではなく一次資料で並べて差し上げることだけですの。それだけですわ🌹
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- フジクラ(5803)株価が高値から3割安の理由
参考:
- 2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(東京エレクトロン IR、PDF)
- 2027年3月期 第1四半期 決算説明会資料(東京エレクトロン IR、PDF)
- 製品・サービス(半導体製造プロセスから探す)|東京エレクトロン
- 7月28日の日本株の急落について(大和アセットマネジメント、PDF)
- 中国勢が国産液浸ArF露光装置を製造開始(セミコンポータル、2026年8月6日)
- 中国、国産DUV露光装置の生産開始(ロイター、2026年7月28日)
※株価は2026年9月11日終値(Yahoo Finance)。決算数値は2026年7月30日発表の2027年3月期第1四半期決算短信および同日公表の決算説明会資料に基づきますわ。地域別売上は決算説明会資料の開示値、利益率・PER・増減率・中計達成時のEPS試算は公表値からのわたくしの計算値ですの。本記事は情報提供を目的としたもので、特定の銘柄の売買を推奨するものではございません。株式投資には価格変動リスクがあり、元本割れが生じるおそれがありますわ。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。






