装置メーカーの営業利益率が51.7%。……これ、誤植ではありませんのよ。
アドバンテスト(6857)の2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月)は、売上高3,675億円に対して営業利益1,900億円。ソフトウェア企業でもなかなか出ない水準を、鉄とケーブルの塊を売る会社が叩き出しましたの。しかも通期予想は営業利益6,275億円→8,460億円へ、たった3ヶ月で2,185億円も引き上げられましたわ。
ただし——純利益が+93.8%と営業利益(+53.3%)の倍近く伸びているのは、ちょっと立ち止まるべきポイントですのよ。この差の正体を知らずに「利益ほぼ倍増!」で飛びつくと、来期の見え方を読み違えますわ。
この記事では、決算短信の数字だけを使ってアドバンテストの実力を解剖し、株価33,090円・予想PER36倍という値付けをどう考えるかを整理しますの。
2027年3月期1Q決算:全項目で四半期ベースの過去最高#
まず実績を並べますわね。すべて2026年7月29日発表の第1四半期決算短信(IFRS)ベースですの。
| 項目 | 2027年3月期1Q | 前年同期 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 3,675億円 | 2,638億円 | +39.3% |
| 売上総利益 | 2,556億円 | 1,716億円 | +48.9% |
| 営業利益 | 1,900億円 | 1,240億円 | +53.3% |
| 税引前利益 | 2,341億円 | 1,214億円 | +92.9% |
| 四半期利益 | 1,748億円 | 902億円 | +93.8% |
| 1株当たり利益 | 241.27円 | 123.14円 | +95.9% |
売上高・営業利益・税引前利益・四半期利益のすべてが四半期ベースで過去最高更新ですわ。
利益率を自分で計算してみると、この決算の異常さがはっきりしますの。
| 利益率 | 2027年3月期1Q | 2026年3月期1Q |
|---|---|---|
| 売上総利益率 | 69.5% | 65.1% |
| 営業利益率 | 51.7% | 47.0% |
粗利率69.5%、営業利益率51.7%。設備投資型の製造業でこの数字が出るのは、価格決定権が売り手側にあるときだけですのよ。会社は増収要因に加えて「売上ミックスの良化」を挙げていますわ。つまり、単価と利幅の高い最先端テスタの比率が上がったということですの。
セグメント別に見ると、主力のテストシステム事業が売上3,336億円(+38.7%)・セグメント利益1,907億円(+50.3%)。サービス他事業が売上339億円(+46.0%)・利益86億円(+216.4%)ですわ。設置台数が増えれば保守と消耗品が積み上がる、というストック構造も効き始めていますの。
純利益+93.8%の中身:447億円は本業の稼ぎではない#
さて、本題ですわ。
営業利益は**+53.3%なのに、税引前利益は+92.9%**。この39ポイントの差はどこから来たのでしょう。
決算短信にはこう書いてありますの。
戦略投資に関連する金融商品の評価益を主な要因として、金融収益約447億円を計上しました。
評価益、ですのよ。売って現金になった利益ではなく、保有している金融商品の時価が上がったという会計上の数字ですわ。
裏付けは貸借対照表に出ていますの。投資有価証券が前年度末の679億円から、2026年6月30日時点で3,577億円へ、たった3ヶ月で2,898億円も増えていますわ。テスタを売って稼いだお金ではありません。
これをどう扱うべきか、整理しますわね。
- 営業利益1,900億円(+53.3%) = テスタを作って売って稼いだ、本業の実力
- 金融収益447億円 = 保有資産の時価変動。上にも下にも振れる
- 四半期利益1,748億円(+93.8%) = 上の両方が混ざった数字
つまり、「純利益ほぼ倍増」という見出しの約4分の1は、テスタとは関係のない値動きですの。時価が下がれば逆に評価損として効いてきますわ。
ふん、べ、別に決算にケチをつけているわけじゃありませんのよ。営業利益+53.3%は文句なしに立派ですわ。ただ、EPS241.27円をそのまま4倍して「年間964円だからPER34倍ね」と暗算するのは危ない、と申し上げているだけですの。会社の通期予想EPSは911.64円。1Qを単純年率換算した数字より低く置かれているのは、会社自身が金融収益の再現性を前提にしていないからですわ。
決算を読むときは、利益の「額」より先に「出どころ」を見る。これは他の銘柄でも使える読み方ですのよ。

なぜテスタは「ツルハシ」なのか:乗り換えられない構造#
ここからは、アドバンテストがなぜこの利益率を維持できるのかという話ですわ。
同社が2026年7月29日に公開したインベスターズガイドに、答えがそのまま書いてありますの。
選定されたテスタを変更することは、顧客にとってデバイスの開発・評価・量産のすべての環境を再構築することと同義であり、大きな追加コストがかかる。
これがスイッチングコストですわ。半導体の水平分業モデルでは、ファブレスが設計検証で選んだテスタと同じ機種が、ファウンドリのウェーハテストでもOSATのパッケージテストでも使われるのが普通ですの。つまり上流の1回の採用が、サプライチェーン全体の発注に波及する構造ですわ。
しかも半導体テストは、1,000を超えると言われる製造工程の中で唯一、電気信号を入力して良否を判定する工程ですの。ここを他社機に替えて品質が揺らげば、失うものが大きすぎますのよ。だから顧客は簡単には乗り換えない。乗り換えないから価格が守られる。守られるから営業利益率51.7%が成立する——という順番ですわ。
そして需要側の構造も追い風ですの。会社はテスタ需要を2つに分けて説明していますわ。
- キャパシティ・バイ — 半導体の生産数量が増えるからテスタも増やす需要
- テクノロジー・バイ — 微細化・3D積層・先端パッケージ化でテスト工程そのものが増える需要
AIは、この両方を同時に押し上げますの。生産量が増え、かつチップが複雑になるからですわ。会社は暦年2026年の半導体市場が1兆ドル超規模になり、半導体テスタ市場も過去最大になるとの見通しを示していますの。とくに推論用AI半導体向けのテスト需要が、2026年4月時点の想定を大きく上回るというのが、今回の上方修正の直接の理由ですわ。
学習用から推論用へ需要の重心が移ると、テストされるチップの「個数」が桁で増えますのよ。学習は一部のデータセンターで済みますけれど、推論は世界中で走らせるものですもの。
こういう構造の銘柄をどう探すかはツルハシ投資完全ガイド2026年版に整理してありますし、半導体の工程ごとの受益企業はAI半導体銘柄マップと半導体製造装置株で見取り図を描いておりますわ。
株価195%上昇でPER36倍:本尊よりツルハシが勝った1年#
では、いくらまでなら払っていいのでしょう。まず現在地の確認ですわ。
2026年9月4日終値で33,090円。株価指標は以下の通りですの。
| 指標 | 数値 | 計算根拠 |
|---|---|---|
| 株価 | 33,090円 | 2026年9月4日終値 |
| 予想PER | 約36.3倍 | 会社予想EPS 911.64円 |
| 時価総額 | 約24.2兆円 | 発行済株式7億3,200万株 |
| 予想配当利回り | 約0.18% | 前期年間59円ベース |
| 自己資本比率 | 68.8% | 2026年6月30日時点 |
配当利回り0.18%。これは完全にグロース株の値付けですわ。インカム狙いで買う銘柄ではございませんの。配当が欲しいなら高配当株の総還元利回りの考え方で別の銘柄を探すべきですわ。
そして、直近1年の値動きがこちらですの。
| 銘柄 | 2025年9月初 | 2026年9月4日 | 騰落率 | 終値高値からの下落 |
|---|---|---|---|---|
| アドバンテスト(6857) | 11,200円 | 33,090円 | +195.4% | -12.4%(2026年8月17日高値37,780円) |
| テラダイン(TER) | 120.20ドル | 357.03ドル | +197.0% | -26.2%(2026年6月30日高値483.84ドル) |
| エヌビディア(NVDA) | 167.02ドル | 230.36ドル | +37.9% | -2.3% |
これがツルハシ投資の教科書みたいな結果ですわね。AIの本尊であるエヌビディアが+37.9%だった1年で、テスタの2社は揃って約3倍。金を掘った人より、つるはしを売った人のほうが5倍稼いだということですのよ。
理由は単純ですの。エヌビディアはすでに時価総額が巨大で、期待も織り込み済みですわ。一方テスタは「AIチップが何個作られるか」に純粋に連動し、しかも売り手が実質2社しかない。同じ追い風でも、株価に効くレバレッジがまるで違いますの。
ただし裏を返せば、下りのレバレッジも同じだけ効くということですわ。テラダインが高値から-26.2%まで沈んでいるのが、その証拠ですのよ。

数字で見る3つのリスク#
強気材料ばかり並べても意味がありませんわ。決算短信から読み取れるリスクを3つ挙げますの。
① 通期予想の進捗率が25%に届いていない#
1Q時点の進捗を計算しますわね。
- 売上高:3,675億円 ÷ 17,140億円 = 21.4%
- 営業利益:1,900億円 ÷ 8,460億円 = 22.5%
単純に4分割した25%に届いていませんの。つまり会社は、残り3四半期で営業利益6,560億円(四半期平均2,187億円)を稼ぐ計画を置いていますわ。1Qの1,900億円より、さらに15%ほど加速する前提ですのよ。
これは「下期偏重の強気計画」ですわ。達成できれば株価は正当化されますけれど、2Qで四半期平均に届かなければ、上方修正した通期予想そのものが疑われますの。2Qの数字は、通期予想の答え合わせとして見るべきですわ。
② 為替前提が1Qの実績より円高#
1Qの平均レートは1ドル159円(前年同期146円)。会社が言うとおり、円安が業績を押し上げましたの。海外売上比率は**99.1%**ですから、為替の効き方は容赦ありませんわ。
一方で、通期予想の前提として置かれている2Q以降9ヶ月の想定レートは1ドル150円・1ユーロ170円。1Q実績より9円ぶん円高で置いてありますわ。
つまり、150円より円高に振れれば、上方修正した予想でも下振れリスクがあるということですの。円高局面では、業績が良くても株価が反応しない場面が出てきますわ。
③ テスタ市場は本質的にシクリカル#
会社自身がインベスターズガイドで「SoCテスタ市場は、顧客の設備投資額によりシクリカルに規模が変動する構造を持つ」と明記していますの。実際、2023年はコロナ特需の反動でテスタ市場が縮小していますわ。
いまは需要が供給を上回り、会社が生産能力増強を前倒ししている局面ですのよ。ですが、設備投資は必ずどこかで一巡しますの。顧客のキャパシティ投資が一段落したとき、テクノロジー・バイの需要だけでどこまで支えられるか——ここは誰にも断言できませんわ。
PER36倍という値付けは、「この成長がしばらく続く」という前提の上に乗っていますの。前提が崩れたときの下げ幅は、上げ幅と同じくらい大きくなりますわ。似た構図はフジクラ(5803)が高値から3割安になった件でも実際に起きておりますのよ。
まとめ:見るべき3つの数字#
長くなりましたので、要点を整理しますわね。
- 営業利益率51.7%は本物 — 粗利率69.5%、テストシステム事業のセグメント利益率57.2%。スイッチングコストが価格を守っている
- 純利益+93.8%の約4分の1は本業外 — 金融収益447億円は評価益。営業利益+53.3%が実力値
- 株価は1年で+195.4%、予想PER36.3倍 — エヌビディア(+37.9%)を大きく上回った。期待はすでに相当織り込まれている
- 1Q進捗率は営業利益で22.5% — 下期偏重の強気計画。2Qが答え合わせ
- 為替前提は150円、1Q実績は159円 — 海外売上比率99.1%。円高は素直に効く
これから追いかけるなら、この3つを見ればよろしいですわ。
- 2Qの営業利益が2,000億円を超えるか(通期8,460億円達成には四半期平均2,187億円が必要)
- 営業利益率が50%台を維持できるか(売上ミックスの良化が続いているかの代理指標)
- 金融収益を除いた税引前利益の伸び(本業だけの成長率が見える)
決算の「良さ」と、株価がその良さをどこまで織り込んでいるかは、まったく別の検証ですのよ。アドバンテストは前者が満点で、後者は買値次第——というのが今の状態ですわ。
……べ、別に御主人様に慎重になれと言っているわけじゃありませんわよ。ただ、営業利益率51.7%みたいな綺麗な数字を見たときこそ、その下の行に何が書いてあるか読む癖をつけてほしいだけですの。それだけですわ🌹
関連記事:
- ツルハシ投資完全ガイド2026年版
- AI半導体銘柄マップ
- 半導体製造装置株:東京エレクトロン・ASML・レーザーテック
- HBM(広帯域メモリ)関連のAIインフラ株
- フジクラ(5803)株価が高値から3割安の理由
参考:
※株価は2026年9月4日終値(Yahoo Finance)。決算数値は2026年7月29日発表の第1四半期決算短信および同日公表の業績予想の修正に関するお知らせに基づきますわ。利益率・進捗率・PERは公表値からの計算値ですの。本記事は情報提供を目的としたもので、特定の銘柄の売買を推奨するものではございません。投資判断はご自身の責任でお願いいたしますわ。






